こりんとってなんだ?
ことの発端は一冊の本である。
「日本の食生活全集 聞き書 長野の食事」にて、「こりんと」という食べ物が紹介されていたのだ。
なんでも、長野県善光寺平で「お盆のお供え物として各家庭で作られるうずまき模様のかりんとう」のことらしい。
しかし、長年長野県北部に住んでいるが、見たことも聞いたことも、もちろん食べたこともない。
「こりんと」とは一体なんなのか?
本当に実在するのか?
こりんとを発見
お盆休み中、なんとなく見ていたテレビ番組で、「長野市篠ノ井でお盆に食べられる謎のお菓子 うずまきかりんとう」という特集が放送されていた。
これって「こりんと」のことじゃないか!?
というわけで翌日、朝イチで買ってきた。
買ってきたものがこちら、「うずまきかりんとう 犬石ものがたり」。
長野市篠ノ井の「農産物直売所たんぽぽ」で購入。1袋に150g(約10枚)入って、税込300円だった。
商品名は「こりんと」ではないが、本に書かれていた特徴と完全に一致する。これで間違いない。
食文化を伝承するべく、30年ほど前からこの直売所で作っているとのこと。一番の人気商品で、これが目当てで来るお客さんも多いそうだ。
こりんともとい、うずまきかりんとうは、県内ではここでしか売っていないらしい。どうりで知らないわけだ。
農産物直売所たんぽぽ
長野市篠ノ井信里地区の農業大好きなお母さんたちが営む直売所。新鮮な野菜が買えるのはもちろんのこと、お母さんたちが作る弁当や惣菜、お菓子も人気で、中でも「おやき」は開店と同時に飛ぶように売れるそうだ。
うずまきかりんとう 犬石ものがたり
というわけで、うずまきかりんとうをお皿に出してみた。
かりんとうのような甘ったるい香りではなく、クッキーのような香ばしくてほのかに甘い香りがする。
大きさは直径5cmほど。名前通りの綺麗なうずまき模様で、見た目にも楽しい。
ごま塩入りの小麦粉と砂糖入りの小麦粉、2種類の生地を丸めて作るので、うずまき模様になるそうだ。(砂糖入りの生地は砂糖が焦げて薄茶色になる)
平べったい形だが、厚みはかなりある。1cm以上のものもあった。
原材料には普通のかりんとうには使われない卵やごまが使われている。
逆に、蜜をからめていないため、水飴は使われておらず、砂糖の量も普通のかりんとうより少ない。
原材料を見る限りでは、甘さ控えめのかりんとうという印象だが、果たしてどんな味なのか?
このうずまきかりんとうは、長野市篠ノ井信里地区の犬石という集落に古くから伝わるお菓子だそうで、お盆のお供え物の他、日常的におやつとしてもよく食べられていたそうだ。商品名の「犬石ものがたり」も犬石という地名から取られている。
食べてみた感想
硬っ……。
かりんとう自体、硬いお菓子ではあるが、これは普通のかりんとうと比べてもかなり硬い。
食感、舌触りはかりんとうよりもクッキーという感じで、一般的なかりんとうとは完全に別物である。
完全に別物ではあるのだが、正直、そんじょそこらのかりんとうよりもよっぽど美味しい。
小麦粉の味がよくわかるほど甘さは控えめで、とにかく素朴な味。(伝わるか分からないが、津軽名物の「縄かりん糖」によく似た味だ)
しかし、この素朴でどこか懐かしさを感じる味がなんとも美味しい。止まらない。飽きが来ない。
これは確かに、これ目当てで買いに来る人の気持ちがよくわかる。お茶菓子にもうってつけだ。
最初は硬いと思っていたが、むしろ食べ進めるうちにこの歯ごたえの良さがクセになる。
あっという間に10枚全て食べ終わってしまった。
後日、再度買って食べてみたところ、今度はあまり硬くない、ふんわりとした食感だった。手作りゆえに水分量や焼き時間などが毎回微妙に違い、食感に差が出るのかもしれない。これも手作りならではだ。硬いのも柔らかいのもどちらも美味しかった。
まとめ
長野県にはまだまだ美味しいものがたくさんあると気付かされた。
こりんとを探してたどり着いた「うずまきかりんとう」。思いもよらぬ出会いだったが、すっかり虜になってしまった。
お盆のお供え物だが、ありがたいことに、たんぽぽさんでは年中作っているそうなので、定期的に通うことになりそうだ。
調べた限りでは、ここでしか買えないので(篠ノ井のAコープで見たという情報も)、興味のある方は、近くを訪れた際に立ち寄ってみてはいかがだろうか。
ちなみに長野県でかりんとうと言えば、有名なのが「久星のかりんとう」だ。松本市の久星食品が作っていたのだが、世界一美味しいと言う人もいるぐらい美味しいかりんとうだった。残念ながら2016年に廃業したので、現在は食べることができないが、今回食べたうずまきかりんとうも、久星のかりんとうに負けないぐらいのポテンシャルを感じた。食文化を伝承するとともに、長野県の名物として今以上に人気が出てくれたらと思う。
おまけ:こりんとの作り方は?
おまけで、本に書かれていたこりんとの作り方を紹介する。
こりんとづくりは、迎え盆の前日からはじまる。まず、黒砂糖を三〇匁ほどと塩一つまみをなべにとり、水を茶わんに一杯加え、煮溶かして冷ましておく。一升ほどの小麦粉が入ったこね鉢に水を入れて、うどんをつくる要領でよくこねて丸める。それをのし板の上に移し、空いたこね鉢に小麦粉を一升ほど入れて、先につくった黒砂糖水を加え、これまた力を入れてよくこねる。一回目の小麦粉の生地と同じ固さになるように、気を配ってまとめる。二つの生地を、のし板の上でそれぞれ別々に、めん棒で二分ほどの厚さにのばす。
平らにのびた白い生地の上に、同じ大きさにのびた、黒砂糖が入った生地を重ねて、よく押さえる。二枚重なった生地を端からくるくる巻いて、落ちつかせる。棒状になったものを、端から一分五厘ぐらいの厚さに切って、蚕飼いに使う竹かごの上に並べる。この竹かごを蚕棚に納めておくと、翌朝までにいくらか乾く。
翌朝、七輪に炭火をおこし、油を入れたなべをかけ、油が熱くなったところへ半乾きのこりんとを少しずつ入れて、気長に揚げる。もろぶた(白木の長方形の浅い盆)の上に、わらをきれいにそろえてのせておき、そのわらの上に、からりと揚がったこりんとをとる。生乾きのこりんとを全部揚げ終わるまでには、二時間近くもかかるので、主婦は真夏の暑さに、いつの間にか、上半身は白木綿のじゅばん一枚になっていることがある。
《参考文献》
(「日本の食生活全集 長野」編集委員会 代表 向山雅重, 聞き書 長野の食事, 社団法人 農山漁村文化協会, 1986, 244p)
とのこと。正直、時代が違いすぎてよく分からないが、とても手間と時間がかかっているということは分かる。
この作り方には卵やごまが登場しないので、うずまきかりんとうはこりんとから派生したものだと思われる。
当時の砂糖や油はとても貴重なものだったと思う。ご先祖様に良いものを食べてもらうために、こりんとがお盆のお供え物として生まれたのではないだろうか。
現在でも、こりんとを家庭で作っているところもあるようだが、めっきり減ってきているとのこと。該当地域でも、こりんとを知らない方も多いそうだ。ダメもとで調べてみたところ、クックパッドに現代風の「こりんとのレシピ」があったので、興味のある方は家で作ってみてはいかがだろうか。
ちなみに「うずまきかりんとう」という名前のかりんとうは、岩手県や北海道にもあるそうだ。
こちらは北海道のうずまきかりんとう。よく似てはいるのだが、こりんとやたんぽぽのうずまきかりんとうとは別物である。
↓当ブログでは以前にも、長野県のお盆の風習やお盆の食べ物について紹介した。興味のある方は見てほしい。